「最善を尽くす」ということ①

ここ数日は「人が死なない防災」という本のご紹介しています。

人が死なない防災 (集英社新書)

人が死なない防災 (集英社新書)

  • 作者:片田 敏孝
  • 発売日: 2012/03/16
  • メディア: 新書
 

 

津波に襲われながらも高い生存率だった釜石での防災教育について書かれた一冊です。この本を書いた片田さんは、2004年から釜石市の「危機管理アドバイザー」を務めている方です。

 

初日のブログの中にも書きましたが、私はこの本を読んだ後、本を片手に釜石まで行きました。そして、津波が到達した高台にひとりで立って、たしかに私がこんなに高台に住んでいたら私も逃げないかもしれないと感じました。

 

それなのに、釜石に住む多くの方は逃げることができたそれを主導したのは「この町で一番防災に詳しいとされていた」中学生たちでした。2004年から片田さんの防災教育が始まったので、一番防災の知識があるのは当時の中学生だ、とされていたのです。

 

 

片田さんのおっしゃる「生きるための指針」は

その一「想定にとらわれるな」

その二「最善を尽くせ」

その三「率先避難者たれ」

 

昨日のブログの中では、その一「想定にとらわれるな」として、なぜハザードマップだけを信じてはいけないのかという話を書きました。

 

今日は、「その二」について紹介しながら、中学生がどうやって町のみんなを救ったのかを書きたいと思います。 

 

本の中にはこのようにあります。

三原則の二つ目は「いかなる状況下においても最善を尽くせ」です

 

「最善を尽くせ。しかし、それでも君は死ぬかもしれない。でも、それは仕方がない。なぜならば、最善というのは、それ以上の対応ができないということだ。それ以上のことができないから、最善というんだ。精一杯のことをやっても、その君の力をしのぐような大きな自然の力があれば、死んでしまう。それが自然の摂理なんだ」

 

おそらく、学校の教育でこんなことは言わないでしょう。学校の先生方は「頑張りなさい。頑張ればできるようになるから」と言って励ますのが普通でしょう。でも、片田という群馬から来た先生は「頑張れ。でも死んじゃうかもしれないぞ」というわけです。

しかし、あえてそのように言うことが、「自然に向かい合う姿勢」を教えるためには大事なことだと思っています。相手は自然なのだから、どんなことだってあり得る。そういう事実に対して謙虚になって、そのうえで、我々ができる最善のことをやる。それが正しい姿勢でしょう。

 

「最善を尽くしたとしても死ぬかもしれない」

「自然に対して謙虚になって、その上で、我々ができる最善のことをやろう」

 

このような教育を受け、 「地域で防災に一番詳しい」とされていた中学生たちが、街のみんなをどう助けて行ったのか。本の中には具体的に書いてあります。

 

大槌湾の近くに、この地域の唯一の中学校である釜石東中学校があります。その隣には、鵜住居(うのすまい)小学校があります。

 

釜石東中学校は、当日、校長先生が不在でした。

ある先生が「逃げろ!」と叫んだのを聞いて、最初に逃げたのはサッカー部員たちだったそうです。グラウンドに地割れが入ったのを見た彼らは、校舎に向かって「津波が来るぞ!逃げるぞ!」と大声を張り上げ、そのまま走り始めて、鵜住居小学校の校庭を横切ります。そして、小学校の校舎に向かって「津波が来るぞ!逃げるぞ!」と声をかけながら、避難場所に向かって全力で走っていきました。

 

地割れが走ったのを見て、とっさに「津波が来るぞ!逃げるぞ!」と校舎に向かって叫んで走り出したサッカー部の部員たち。そしてそのまま走りながら、小学校の校舎に向かって「津波が来るぞ!逃げるぞ!」と声をかけた、このときの中学生たちのことを想うと、心が震え、息をのみました。

 

さらに、本の中ではこのように続きます。

実は、小学生たちは、当初、校舎内の3階に避難しているところでした。

 

鵜住居(うのすまい)小学校は、そのとき耐震補強が終わったばかりの鉄筋コンクリートの三階建てでした。そして、ハザードマップ上では「津波は来ない」エリアです。さらに、当日は雪が降っていたこともあって、先生方は子どもたちを三階へ誘導していました。決して的外れな行動ではありません。ところが、この二つの学校は、普段から共同で「ございしょの里」まで逃げるという避難訓練をやっていました。小学校の子どもたちは日頃一緒に訓練している中学生たちが全力で駆けていくのを見て、三階から降りてきて、その列に加わったのです。結局、およそ600人の小中学生たちが、細い道を通って「ございしょの里」へ向かいました。

また、この地域では、津波にいちばん詳しいのは中学生ということになっていました。学校の近所に住んでいるおじいちゃん、おばあちゃんたちも、その中学生たちが血相を変えて逃げていく光景を見て、それに引き込まれるようにして、一緒に逃げ始めました。

同じ地域にある鵜住居保育園でも、保育士さんたちがゼロ歳児をおんぶして、ほかの小さな子どもたちを五、六人乗りのベビーカーに乗せて、坂道を上がっていきました。それを中学生たちが見つけて、女の子はベビーカーに載れない子どもを抱きかかえ、男の子はベビーカーを押してあげた。そうやって、みんなで「ございしょの里」に入っていきました。

 

小学校の先生たちは小学生を三階に誘導しようとした。それも決して間違った判断ではなかった。でも、子どもたちは、きちんと自分たちで判断をして、校舎の三階から降りてきて、中学生の列に加わったのです。これは本当に素晴らしいことです。

 

「想定にとらわれるな、最善を尽くせ」

「自分の命は、自分で命を守る」

ということを、”本当の意味で”よく理解した子どもたちの判断を、心から尊敬します。

 

 

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本には避難時の写真も一枚残されています。

この写真は、よく見ると、小学生と中学生が手をつないでいるのが分かります。帽子をかぶっているのが小学生。その隣にいて帽子をかぶっていないのが中学生です。中学生が小学生を伴走しながら励ましながら逃げているのです。

また、ゆっくり歩いているのではなく、みんなで走っている様子も、体の角度や様子からよくわかります。みんながまっすぐ前を向いて、走って逃げています。

小学生はきっと「もうきついな、立ち止まりたいな、歩きたいな」と思った時があったかもしれません。それでも、隣をむけば真っ直ぐ前を向いた中学生のお兄さん、お姉さんがいてくれる。小学生はきっと「頑張らなきゃ、走らなきゃ」と思えたのではないかと想像します。

 

 

「想定にとらわれるな、最善を尽くせ」

「自分の命は、自分で命を守る」

長年受けてきた防災教育の成果を、今ここで、子どもたちは実行しているのです。 

 

そして無事に、街のひとたちも巻き込みながら、みんなで「ございしょの里」に到着しました。しかし、話はここでは終わりません。実は、結論から言うと、「ございしょの里」にもこの後津波がやってきました。でも、子どもたちはひとり残らず逃げて生き延びることができた。どうしてそんなことができたのか。少し長くなってしまったので、続きは、明日、書きたいと思います。

 

本の一部を引用してご紹介していますが、いまここでご紹介しているのはごく一部です。この本は、防災を通じて多くのことを学ぶことができる一冊です。ぜひご自身で手に取って読んでください。お子さんと一緒に読んでいただけるとより良いと思います。

人が死なない防災 (集英社新書)

人が死なない防災 (集英社新書)

  • 作者:片田 敏孝
  • 発売日: 2012/03/16
  • メディア: 新書
 

 

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