ここ数日は、「人が死なない防災」という本のご紹介しています。ひとりでも多くの方が防災について考えるきっかけになっていれば嬉しいです。
「想定にとらわれるな」「最善を尽くせ」そんな防災教育を小さいころから受けてきていた中学生は、地域の小学生や高齢者を巻き込みながら「ございしょの里」までやってきた。今日は、この話の続きです。
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そうやって、みんなで「ございしょの里」に入っていきました。
ところが、「ございしょの里」の裏の崖が地震で崩れかけていた。それに気づいたある中学生がこう言ったそうです。
「先生、ここ、崖が崩れかけているから危ない。それに揺れが大きかったから、ここも津波来るかもしれない。もっと高いところへ行こう。」
「ございしょの里」よりもさらに高台に、介護福祉施設があります。「やまざき機能訓練デイサービスホーム」といって、通称「やまざき」ともいうのですが、子どもたちが「先生、やまざき行こう、やまざき」と言い始めるわけです。この頃には、すでに津波は町へ到達していて、防波堤に津波が当たって水しぶきがあがる光景が見えています。家々が壊れ、土煙が上がる光景も見える。それを見た小学生が、「あー、僕んちがー」と泣きじゃくるような状態だったと言います。みんなは懸命に「やまざき」まで移動をはじめました。
どうにかこうにか、みんなが「やまざき」に逃げ込んだその30秒後、津波は「やまざき」の手前までやって来て、そこで瓦礫が渦を巻きました。
それを見た瞬間、子どもたちはクモの子を散らすように、懸命に、一斉に逃げ始めました。子どもたちは、小さな子どもやお年寄りとともに、さらに高台にある国道四十五号線沿いにある石材店までいきました。
本当にギリギリのところで、生き延びることができたのです。それは、中学生が「先生、ここは危ない。次へ行こう」と言った、このひと言に始まったと思います。
本の中に、こんな地図が載っています。黒く塗りつぶされているところが、当時のハザードマップの「津波浸水想定区域」で、黒い線が「東日本大震災での浸水範囲」です。
釜石東中学校も、鵜住居(うのすまい)小学校も、当時のハザードマップ上では「浸水想定区域」の外でした。あらかじめ決めておいた避難場所である「ございしょの里」は、中学校や小学校よりもはるかに高台にあります。きっと大人たちは「まさかございしょの里までは津波は来ないだろう」と考えて、ここを避難場所に設定したのだろうと思います。
しかし、この地図からも分かるように「ございしょの里」も結果的には津波で浸水しています。そして、さらにその後に避難した「やまざき」の本当に手前まで、津波はやってきています。
「最善を尽くせ。しかし、それでも君は死ぬかもしれない。でも、それは仕方がない。なぜならば、最善というのは、それ以上の対応ができないということだ。それ以上のことができないから、最善というんだ。精一杯のことをやっても、その君の力をしのぐような大きな自然の力があれば、死んでしまう。それが自然の摂理なんだ」
その教えが肌にしみこんでいた子どもたちは、「もっと上に行こう、やまざき行こう、やまざき」と言った。自分たちの判断で、やまざきを目指した。中学生たちはグラウンドから走り出した時から、その瞬間瞬間で、何が最善なのか、自分にはまだできることはないかを考えながら必死で逃げたと思います。時には小学生を励まし、時には保育園児を抱っこしながら、文字通り最善を尽くしたと思います。そんな釜石の子どもたちを思うと、息を飲むことしかできません。
「想定していた避難場所を変える」ということは、大人でもなかなかできることではないと思います。学校から必死の思いで逃げてきて、やっと避難場所の「ございしょの里」に着いたのです。建物の中に入って、ホッと一息ついてもいいと思うのに、子どもたちはさらに上へと逃げた。結果的には、そのおかげで、尊い600名の児童の命が救われました。それは決して簡単なことではなく、本当にすごいことだと思います。
私はこの本を読んだあと、ひとりで釜石に行きました。そして「四十五号線沿いの石材店」を探しました。
登っても登っても石材店はなかなか見つからないので、今はもう石材店はないのかなと思った道の先に、ひとつの石材店を見つけました。それは、山の上の、高い高い山道の脇にありました。まさかこの手前まで津波がくるなんて、だれが想像できるだろうか、という場所でした。これが「自然の力」なのかとため息をつきました。
釜石に行って思ったことは、釜石は海と山がとても近い地形をしているということです。少し登ると高いところに行ける。その地形のおかげで多くの命が助かったのかもしれないと、現地に行って感じました。しかし、裏を返せば、海は近いものの、「ほんの少し登ればもう高台」なので、当時のハザードマップ上で「浸水区域」とはされていなかった地域は「到底こんなところまで津波は来ない」と考えても致し方がないと思えるほどの高台でした。
でも、そこに津波がやってきた。
「想定にとらわれるな」「最善を尽くせ」「自分の命は自分で守れ」そんな教えが肌にしみ、「自然に向かい合う姿勢」を正しく知った子どもたちが、自分の、そして街のみんなの命を救ったのだと思います。
私たちに釜石の子どもたちと同じことができるでしょうか。
緊急地震速報といい、雨雲レーダーといい、テクノロジーは進化しています。おかげで私たち人間は、まるで自然を制覇したような錯覚を覚えることがないでしょうか。しかし、それは間違いです。自然は私たちの想像をはるかに超えるほど偉大で、到底私たちがおよぶものではありません。そのことを、「本当の意味で」理解しなければ、釜石の子どもたちと同じ判断と行動はできないと思います。
本の中では、「生きるための指針」として、3つの原則が書いてあります。
その一「想定にとらわれるな」
その二「最善を尽くせ」
その三「率先避難者たれ」
今日までで「その一」と「その二」について書いてきました。連日長くなってしまっていますが、とても大切なことなので、すこしじっくり書かせてください。明日は、「その三 率先避難者たれ」をご紹介したいと思います。
津波でなくとも、自然災害は誰にでも起こり得ます。この本は、釜石での経験を通して、多くのことが学べる一冊です。防災についてだけでなく「自分の頭で考える」ということはどういうことなのかが良く分かる一冊です。ぜひお子さんと一緒に読んでいただきたいと思います。
今日も読んでいただきありがとうございます。自分で学べる子、自分で考えられる子を増やしたいという想いでブログをはじめました。できるだけ多くの方の目に留まるといいなぁと思ってランキングに参加しています。応援していただけると嬉しいです。